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梨灰の釉薬を使った「利府焼」をお披露目。利府町の陶芸家4人展~梨のきもち~



梨のきもちを陶器にこめて

春先に剪定した利府梨の枝は燃やされて灰になります。
展示会のテーマは、この梨の灰を使って器を作ることです。
利府町で活動する4人に陶芸家がどのように表現したかをご覧ください。


2021年8月21日(土)22日(日)の2日間 。tsumikiを会場に熊谷苑子さん、鈴木俊明さん、須田聡宏さん、市岡泰さん(上の写真左から)、陶芸家4人の展示販売会を開催しました。

「梨の灰」を釉薬として制作した作品は、4者4様の個性ある器に。そして、4人の共通の感想は、思っていた以上に「梨っぽい」仕上がりになったこと。

2日目に行なわれた、陶芸家4人のトークイベントでは、これまでの活動や梨灰を使って器を作るきっかけなど、それぞれの陶芸活動にかける想いや今後も利府の素材を生かし「利府焼」として広めていきたいという抱負が語られました。




須田聡宏さん

利府町菅谷台にある「アトリエ陶の泉」を経営。陶芸教室で陶芸の楽しさを伝えながら制作、販売を行っています。いわゆる今回の展示会のいいだしっぺ。展示会を実現するために3人に参加を呼びかけ、tsumikiに企画を持ち込み会場確保に奔走しました。

須田さんは、利府梨の木の灰を原料とした釉薬を施し、利府町春日地区で採取した土を使った「利府焼」を提唱しています。ことのはじまりは、教室に通う生徒さんと交わした会話から。

釉薬に梨灰を使ってみるのも面白いですねという話をしていたところ、それが地元の伊藤梨園さんに伝わり、梨灰を探す間もなく梨の灰が一斗缶で2缶。ドーンと届けられたのでした。提供してくださった伊藤さんの心意気に感激した須田さんは、何とか焼き物として形したいと創作意欲が湧いてきたのでした。


「梨っぽい色がでたなあ」というのが、須田さんの第一印象。

陶器で、釉薬を使ったところは表面がつるつるコーティングしたようになります。釉薬の種類の灰釉(はいゆう)は、草木の灰と長石などを砕いて水で溶いたもので、松の木や藁などいろいろな植物の灰が使われています。加える灰の種類や量を調整したり、鉄や銅などの金属を加えることよっても、色や質感などに変化をつけることができます。

ただし梨の木の灰を原料とした釉薬を使ったから、梨の色がでるというわけではないそうで、ここが陶芸の面白さ。須田さんの場合は、95%位の梨灰を調合し釉薬として施し陶器を制作しています。




市岡 泰さん

須田さんとは宮城教育大学の同級生で、同じ利府町菅谷台に工房を持ち創作しています。全国各地で個展を開催し活躍している陶芸家ですが、なんと利府町で展示会を行うのは、今回が初めて。たくさんの方が会場を訪れ、市岡さん自身が町内の方々やいろいろな方々とつながりができたことは、有意義な機会となりました。


市岡さんは、須田さんと同じ伊藤梨園さんから剪定した梨の木を自宅の薪ストーブ用に分けてもらい、焚いた後にできた灰を釉薬にして器を作りました。実際に、梨灰を使ってみると、思ったより使いやすいと感じたそうです。ほかの灰の中には、安定しにくく流れやすくなることがあるのですが、比較的そういう性質が少なかったからです。今後は、土も利府の土を使い100%利府の素材で陶器を創ってみたいと創作意欲を示しています。




熊谷苑子さん

東北芸術工科大学で陶芸を学び、現在は利府町内で2児の子育てをしながら「ノコリエ」の屋号で作家活動をしています。小学2年生の時から、途中進学就職で離れた時期を除き、ずっと住み続けてきた利府町で、こうして展示展ができるということは、感慨深いと言います。


熊谷さんは、梨灰をアクセント的に使い10%位しか入れていないのですが、少ない量の梨灰が、結構主張してきてびっくり。焼いてみると、梨の風合いが出て梨っぽく仕上がったのには驚ききました。

今回、熊谷さんが使った梨灰は、地域おこし協力隊の吉川一利さんの梨園の梨枝を灰にしたものを分けてもらいました。普段は市販の釉薬を使うのですが、もらった灰をすり鉢で灰を擦る作業から始めました。梨の灰は思ったより硬くていつまでもごりごりとした粒が残り細かく砕くのに苦労しましたが、それも楽しい作業だったようです。




鈴木俊明さん

4人の中では異色の存在。歯科技工士という本業を持つ傍ら、38歳の時から陶芸家活動をはじめた、遅咲きの陶芸家です。イナゴボールの屋号でtsumikiが主催するこ・あきない市などに出店しています。

鈴木さんは、自分で梨灰を作るところからはじめました。tsumikiで知り合った地域おこし協力隊の近江貴之さんの梨園を訪れ、自分の手で伐採した枝を自作のカマドで焼いて作ったのです。そして、枝を燃やしている間の熱と時間を利用して、ジビエ肉を焼いたり、話を聞いて駆けつけたうちみ旅館のご主人が土鍋でご飯を炊いてくれたり、食後にコーヒーを淹れたり…こうして、仲間との楽しい思い出も混ぜ込んだ、鈴木さん特性の梨灰が出来上がったのでした。



自作の梨灰を、100%まじりっけなしで使って創った器は、皆さんが言っているとおり、なぜか梨っぽく仕上がりました。風合いもぼこぼこした地肌も梨っぽい。灰づくりの時しみ込んだであろう、肉の油やコーヒーの香り。それらの不純物も全部ひっくるめて、自分らしい作風に仕上がったと満足気です。

梨灰を使ってのはじめての挑戦でしたが、おもしろいものが焼けたので、利府焼の可能性が広がり、一歩踏み出せたと語ります。



今回、利府で活躍する4人の陶芸家の作品が一堂に介した初の展示会。それぞれに梨灰の使い方が違ってい面白く、それでいて出来上がった陶器は、それぞれが作品のどこかに梨っぽさを残しているのも、利府焼の特徴のようです。



梨灰を使った4人の挑戦は、新たな可能性を示す展示会となりました。これから、利府梨の灰を使った焼物が「利府焼」としてどんなふうに展開していくのかが楽しみです。tsumikiも引き続き応援していきたいと思います。




(tsumikiチーフコーディネーター 葛西淳子)



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