今年度2回目のオープンイノベーション工場見学ツアーを、7月19日(金)真栄工芸株式会社と欅産業利府本社ショールームの2社にご協力いただき、開催いたしました。
前回6月に開催した工場見学ツアー同様、利府町の企業がどんなことをしているか知るしっかけとなったと同時に、企業と地域住民が交流する貴重な場となりました。参加者は、総勢13名でした。
■6/27㈭の工場見学の様子はこちら⇒★
真栄工芸株式会社
真栄工芸株式会社は、1967年の創業以来、地域や顧客のニーズに応える形で事業内容を進化させてきました。現在の主力は内外装の仕事で、家具と看板製作にも力入れています。
前半の説明では、真栄工芸が利府町内にある施設・事業所の内装や看板などを、幅広く手掛けていたことを知りました。町内でよく目にするものが、「この会社が作っていたんだ」と知るだけで、普段の見え方が変わります。まずは、知ること。とても大事ですね。
会社の説明が終わると、次は工場内を案内していただきました。今回はサイン製作の現場と、木工・家具エリアを見学。サイン製作の現場では、3Dプリンターによる実演がなされ、手の立体物が徐々にできていく過程に、参加者のみなさんは思わず息をのみました。
展示されたサインも様々で、中でもレトロなデザインやアナログチックな照明ディスプレーなどがあり、新しいものの中に哀愁漂う趣が感じられました。
木工・家具のエリアでは、NCルータと呼ばれる機械を実際に稼働。いろりテーブルの一部品が出来上がるまでの過程を見せていただきました。コンピューターと連動して高速かつ精密に切削加工する様子に、参加者からも思わず拍手が沸き起こりました。
いろりテーブルの写真を見て分かる通り、テーブルやテーブルを囲んだ二つの椅子には釘が使われておらず、いわゆる木組みの手法が取り入れられています。NCルータという最新機械を導入すると同時に、日本建築の伝統的な技を融合させ、新しさの中に”職人技”を表現するのも真栄工芸の特徴でした。
これは単に伝統への復古というわけではなく、木組みを採用することで、丈夫で安全、持ち運びが簡単にできるという合理的な理由があることを学びました。
廃材利用と地域とのつながり
そのほかにも参加者の注目を浴びたのは、真栄工芸が積極的に廃材を利用していたことです。ふるさと納税の返礼品ともなっているスパイシーモルックは、その一例です。他にも、梨の古木を使ったギターやスマホスタンドの製作、またある場所で落札した屋久杉の切り株も、どんなものに再生させるか今から考えているのだとか。
べニアハウスを含めたこうした制作物は、活用場所を求めており、一言あればお貸しするそうです。イベントの雰囲気づくりや演出を彩るものとして、使用してはいかがでしょうか。
欅産業利府本社ショールーム
真栄工芸を後にし、工場見学の一行は欅産業利府本社ショールームに向かいました。欅産業は、仙台の伝統工芸品「仙台箪笥」をつくっている会社です。今回は、ショールームを見学させていただき、仙台箪笥の歴史や仙台箪笥を支えているキートピックについて学んできました。
危機を乗り越えてきた仙台箪笥
代表取締役社長の大原良光さんより、仙台箪笥の概要についてお話しいただきました。大原さんの説明によれば、仙台箪笥は仙台藩の武士の内職として始まり、250年以上の歴史があるそうです。武士が作ったので、見た目はごつごつと勇壮であり、その姿が現在に引き継がれています。こうした伝統をつぐ箪笥は日本全国で唯一仙台箪笥だけとなっており、その希少性をまざまざと感じさせていただきました。
そんな仙台箪笥もこれまでの歴史の中で、順風満帆に受け継がれてきたわけではありません。様々な危機を乗り越え、今に至っています。大原社長が、とりわけ大きな危機として取り上げていたのが、明治維新、戦争、東日本大震災、コロナ禍でした。
明治維新では、古いものは時代遅れの観念のもと、多くの伝統工芸品が廃れました。しかし、そんな中でも仙台箪笥は、海外、とりわけヨーロッパに活路を見出し、外貨を獲得したことで難を逃れます。
第二次世界大戦もまた大きな危機でした。仙台大空襲を含め、日本全国焦土と化した日本において、一から立て直すことは多大な困難を伴いました。しかし、日本に駐留した米兵や日本外国人三大避暑地である七ヶ浜に居住した家族が、日本の土産品として仙台箪笥を買い求めたと言います。
そして近年では、東日本大震災とコロナ禍です。これらの天災は、物理的・経済的に職人や工場の生業を破壊しました。この影響は現在も続いており、仙台箪笥を支える職人の確保が難しくなっています。
職人による分業制と最新技術の導入
仙台箪笥の製作はどのように行っているのでしょうか。仙台箪笥は昔から指物をする「木地師」、漆塗りをする「塗り師」、銅や鉄を鏨で打ち出し文様を作る「金具師」の三位一体の技術で製作されました。その製作スタイルは今でも受け継がれています。各地で活躍する職人がそれぞれの職務を全うし、最後に欅産業で金具職人が全体に金具を取り付け完成させ、お客様にお届けします。
こうした職人による分業制は、仙台箪笥を継続させてきた最大の理由であると同時に、職人確保の難しさなどの面からは、仙台箪笥の継承を脅かす一因にもなっています。特に、金具彫金の技術は最難関のものであるらしく、現在は優秀な彫金師と提携しているとはいえ、その次がなかなか育たない現状があるようです。
欅産業では、他社と協働し、最新の産業機械による彫金にも乗り出しました。これまでは、機械による彫金は無理と言われていた分野ですが、精巧な彫金を実現し、現在では一部実装している状況です。このようにして、欅産業は現在進行形の困難にも立ち向かっています。
日本の伝統品は「漆」が支えていた
仙台箪笥に使われている「漆」についても教えていただきました。漆は、伝統工芸の立場から日本を日本たらしてめている最大の功労者で、その英訳も”Japan”そのものだそうです。
なぜ漆なのか。漆には強力な防腐作用、抗菌作用、防水作用があるからです。世界広しと言えど、日本のように千年以上の木造建築が現在にまで残っている例はありません。外壁に使用された漆塗料がそれを可能にしたのです。
日本人と漆の関係を示す最初の痕跡は、縄文土器に見られるようで、その最古をたどるとなんと1万年以上も前のことだそうです。そう考えると、漆のありがたさや、漆製品を見る目が変わるような思いがしました。
欅産業の使命
以上のように、仙台箪笥を現在にまで成り立たせている大切なキーワードについて教えてくださった大原さんは、最後に欅産業が担っている使命について熱く語ってくださいました。
「工芸家具は良いものを制作するだけではいずれ廃れてしまいます。欅産業はお客様への販売、という部分を全面的に担っています。ショールームを作り、カタログやHPを制作し、ベテランの販売スタッフが丁寧にお客様と向き合うことで、仙台箪笥を全国に販売しています。買って頂いてこそ、継続的に職人の仕事を生み出すことが出来ています。」
仙台箪笥という伝統工芸品を守りつつ、それを商品として売り出す使命を帯びている欅産業。そこには常に事業を成り立たせる難しさを抱えています。が、欅産業はこれからも幾多の困難を乗り越え、未来を切り開いていくのでしょう。利府町にこのような会社があるということを、一人でも多くの人に知っていただきたいと思いました。
工場見学を終えて
今回ご協力いただいた2社には、それぞれの特長と面白さがありました。欅産業は、古き良きもをベースに、時代の要請に合わせ、最先端の技術を取り入れていました。一方真栄工芸は、新たなものを創造する理念のもと、アナログや伝統技術の良い部分を取り入れいているといった感じを受けました。
事業の出発点を異にする2社を今回訪問したことで、オープンイノベーションの多様なあり方を考えるきっかけになりました。利府町の産業面におけるポテンシャルは、とても大きいです。そして利府町の未来を想像してみると、なんかワクワクしてきます。
6月と7月の工場見学ツアーをふまえ、今後、tsumikiでは必要に応じて様々な形や角度からオープンイノベーション化に向け取り組んでいきたいと思います。
★これまでのオープンイノベーションに関係する取り組みはこちら
2020年 「五感市」に学ぶオープンイノベーションセミナー
2021年 株式会社日の丸ディスプレーの工場見学
2022年 真栄工芸株式会社の工場見学
2023年 株式会社KALBAS&株式会社トオハの工場見学
(tsumiki コーディネーター 石井 宏之)